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Installation view at The Ginza Art Space, Tokyo, 1997. Photography by Tadahisa Sakurai.
Detail. Photography by Tartaruga.
Detail. Photography by Tadahisa Sakurai.
Installation view at Hyperion Arte Contemporanea, Turin, 1998. Photography by Tartaruga.
Performance view at Hyperion Arte Contemporanea, Turin, 1998. Photography by Aya Utsugi.
Performance view at Hyperion Arte Contemporanea, Turin, 1998. Photography by Aya Utsugi.
Installation view at Museum of Contemporary Art, Sidney, 2001. Photography by Greg Weight.
レモンプロジェクト 03
1997
レモン、ガラス、ステンレス、塗装、レモンオイル
サイズ可変
Courtesy Shiseido Gallery,Tokyo, Hyperion Arte Contemporanea, Turin, Museum of Contemporary Art, Sidney and Tomio Koyama Gallery, Tokyo
東京で初めて発表された「レモンプロジェクト03」では、ギャラリ−の部屋全体の床が、1万個の本物のレモンの“絨毯/自然”によって完全に覆われ、部屋の壁も、このレモンの自然な色合いとほとんど同じ黄色で塗られた。その空間に足を踏み入れながら、観客は直ちに目の眩むような黄色い色彩にだけではなく、レモンの強烈なにおいに捕らえられる。ステンレスと強化ガラスでつくられた、ステップを渡りながら、観客は部屋の一方からもう一方へとたどりつき、そこで早速、レモンのフレッシュジュ−スを振る舞ってくれる作家と対面することになる。この周囲を巻き込むインスタレ−ションに、私たちは多数の、複雑なコンセプトの注釈をみつける。
たとえば、広い部屋に、あたかも石畳のようにレモンが敷き詰められている。 この場合も、レモンで床を覆うためにならべられたレモンの数は、 来訪者には数えることができない膨大なものであった。 そして、おそらくは変質していくレモンのために、あるいは、廣瀬が観客のさまざまな感覚を刺激する目的で、レモネードをふるまう準備をしておいたために、その時も空間は可動性を帯びていた。そこでは、作品は実際に消費され、 飲み込まれ、 観客の内部に照射されていた。さらに会場の空気中には、(展覧会の開催地である)イタリアで潤沢な、この柑橘類から抽出された多量のエッセシャリオイルが散布されていたのである。 視覚から嗅覚へと、注意を転換させるこの「付加的な香り」によって、そこにはもうひとつの意味が加味されていた。さらに、 インスタレーションの一部分を横切ることを可能にしている透明な踏み台は、観客がレモンの上を通り過ぎて行きながら作品を眺める際に、 さまざまなパースペクティブを提供していた。 すべての感覚を刺激するということは、つまりは、 西洋美術の歴史を特徴づけている視覚の優位というものに対して異議を述べることであり、観客に自分の目の前にあるものを体験させ、 より広い意識をそこに傾けさせることである。 多様性に満ちた知覚の方法を強化することは、 安易な認識にとどまらずに、単純そのものと見られているもの、 あるいは確実であるとみなされているものを、 驚きをもって見つめることへのひとつの案内なのである。 例えば、さまざまな匂いは(当然のことながら)目に見えないものであるにもかかわらず、廣瀬が決してあるイメージの強さ(あるいは不確かさ) といったものに転換しようとしない諸々の要素に対して、非常に大きな物質性や具体性、存在感を与えているように感じられる。